Reports レポート

ニフティクリエイティブデザイン部の部員が参加した、「セミナー」や「展示会」のレポートです。

アイコン画像

担当-

日付- 2012年06月09日

【ぴよぴよ通信第6回】原研哉+武蔵野美術大学原研哉ゼミ 公開セミナー

ぴよぴよ通信
ひよこデザイナー2人が日々勉強しているデザインのこと、展示のレポートなどをお届けするレポートです。


2012年5月13日に行ってきた
原研哉のセミナーの感想と
一つだけ、どうしても聞きたかった質問をしてきたので
今回はそのレポートです。

【参加セミナー名】
『Ex-formation半熟』(平凡社)刊行記念  原研哉+武蔵野美術大学原研哉ゼミ 公開セミナー


【目次】
■今回のセミナーについて
■セミナー感想
■原研哉先生へ質問してみる


■今回のセミナーについて

今回のセミナーは、
武蔵野美術大学 基礎デザイン学科の原研哉ゼミの卒業生達が、
社会に出て1年たった今改めて、
自分の卒業制作を5分程度でプレゼンし、
原先生が講評するという内容でした。

原ゼミでは、
毎年ゼミ生の卒業制作を本にして出版しており、
その発売記念をもとに今回のトークショーが開催されたようです。
Ex-formation-半熟-原-研哉

発表内容で印象的だったのは、
山本勝也さんの「縫い包み」です。
ぬいぐるみの持つ<かわいさ>と
ぬいぐるみによって作られた「解剖標本」や「札束」などの
<グロテスクさ>の対比考察が面白い作品でした。

また原先生の会場進行も非常に印象的で、
生徒のプレゼン内容に対して笑いが起こると
「会場を笑わせるということは、みんなが理解を示し、共有できているという証拠だよ。」
などのお話をされていました。
会場の反応、生徒の作品、生徒本人…と
場の空気全体を同時に俯瞰した進行をされている姿を見て、
原先生がデザインを生み出すにあたっての
秘密があるような気がしてなりませんでした。


■セミナー感想

今回のセミナーで面白いと感じた点は
原ゼミの卒業生達が
自分達の作品に1年ぶりに向き合って
プレゼンするというところです。

"卒業制作"というのは、
美大生の多くにとって
自分の制作魂をかけた一大イベントになります。

社会人生活が1年たった卒業生達が
改めて卒業制作に向き合う姿は、
自分の作品に客観的になれた部分もありつつ、
まだ捨てられない何かが残っているような感じもありつつ…
というような、
自分と自分の作品との曖昧な距離感が印象的でした。


■原研哉先生へ質問してみる

原先生が講評をしていく中で、
とても気になる言葉がありました。

「卒業制作というのは、
 一生懸命やるほど、今後の人生に大きく響いていくものだよ」

私はこの言葉が非常に気になって、
トークショーが終わった後に、原先生に質問してみました。

「卒業制作が今後の人生に大きく響くというお言葉ですが、
 どうしてそう思われるのですか?

 私も武蔵野美術大学の卒業生ですが、
 この先、一生、卒業制作を超えるモノ作りができないような気がして
 "卒業制作"というものに対して、すごく不思議なもどかしい感覚を覚えるんです。」

「超える」と言うのは、クオリティとかそういうモノではなく、
自分の意識とか、作品への想いとかそういった目に見えない部分の話です。

私は自分の卒業制作に、
驚くほど一生懸命に取り組んだのですが、
その後はなんだか、
"卒業制作を作っていた時の自分の熱意"のようなものに捕らわれてしまって、
社会の中でのモノ作りへの向き合い方に混乱してしまうことがありました。
でもその混乱の原因が今ひとつ分からず、どうもモヤモヤしてしまうのです。

そしてこの質問をしたところで、
多くの美大卒業生からは、
次のような答えが返ってくることが想定できていました。
「社会人は時間がないから」「自分のためのモノ作りができる最後の機会だから」
このあたりでしょうか。

でも私は、原研哉という偉大なデザイナーが、
私のこの質問に対してどういう返答をしてくれるのか、
それが聞きたいと思いました。

原先生は、次のように答えてくださいました。

「学生時代というのは、
 自分自身と、一つの作品にとことん向き合える、
 ゆっくりとした時間がある。
 でも社会に出た途端、時間は加速して、
 まるで空中にジャグリングするように、
 永久に複数の仕事を、同時に回し続けなくてはならない。
 もしもちょっとでも手を止めたら、ボールは一気に全部落ちてしまう。
 社会人は忙しい。
 そこが学生と社会人との違いになる。

 僕自身の卒業制作では、
 タイポグラフィックの論文を書いていた。
 今でも、僕の作品の中核になっているのは、
 タイポグラフィックや言葉。
 卒業制作は、今後のモノ作りにおいて、
 中核になっていくものになる。

 そして何より、超えられないジレンマが出てくるくらい、
 卒業制作をやりきれたことは、あなたにとってとてもHAPPYなこと。
 でもこれからは、別の観点から超えられる何かが出てくるはず。」

特に最後のあたり、
私の想定を遙かに超える、
社会の中でモノ作りに向き合うことへの希望を与えてくれる
嬉しい言葉をいただくことができました。

社会人生活の中で、
モノを作り出すということは、
お金や時間などのたくさんの制約に阻まれて、
自分のためのモノ作りとは違う苦しみにぶつかります。

社会の中でのモノ作り生活を送るにあたり、
「これからは、別の観点から超えられる何かが出てくるはず。」
という原先生のお言葉の「その時」に、
もう出会えている方は多いのでしょうか…?

私はまだ当分は見えないだろうけれど、
簡単には見えない方がよいだろうけど、
その時がくる日を目標に、
「社会の中でのモノ作り」に
向かい合っていきたいと改めて考えさせられました。

そして、大学4年生の時の
一生懸命だったころの自分を忘れないでおかなくては
とも考えさせられました。

でもとにかく今は、原先生の言葉を借りれば、
今はとにかく毎日の仕事のジャグリングを
早く正確に回せるようになるよう頑張らなくてはと
意気込んだセミナーになりました。