Reports レポート

ニフティクリエイティブデザイン部の部員が参加した、「セミナー」や「展示会」のレポートです。

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日付- 2013年04月09日

【こっこ通信第2回】作家・川上弘美トークショー

こっこ通信

こっこデザイナー2人が日々勉強しているデザインのこと、
展示のレポートなどをお届けするレポートです。

こんにちは。こっこ通信です。
3月26日、代官山蔦屋で開催された
作家・川上弘美さんトークショーのレポートです。


【目次】
■川上弘美さん紹介
■トークショー内容
■自分の価値観を作品にする

■川上弘美さん紹介

川上弘美さんは、現在55才の女性の小説家です。
96年「蛇を踏む」で芥川賞、99年『神様』でドゥマゴ文学賞、
紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、
01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、07年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、
実力も評価されており、人気のある作家の一人といえます。

私は、美術大学の受験時代に彼女の作品に出会って以来、
彼女の出版する本はほぼすべて読んでいるくらい大ファンです。
彼女の小説が好きな理由は、
ファンタジー世界と女性の現実が入り交じった世界観が美しいからです。
人魚をマンションで飼ってみたり、
となりの家に引っ越してきた熊と一緒にピクニックにいったり、
昔の浮気相手がお化けになって訪ねてきたり、
設定はファンタジーのものが多いのですが、
その体験を通した主人公たちの心情描写や行動が非常にリアルで、
現実と非現実のあいまいな物語にぐいぐいと引き込まれていってしまいます。

■トークショー内容

今回は、新作『なめらかで熱くて甘苦しくて』の刊行を記念したトークショーでした。
新作のテーマは、「性欲」。
川上さんは大学時代、生物学を専攻していたこともあり、
自分の性欲の変化などは常に意識しているそうです。

ある時、知り合いとの会話の中での「結婚も結局、性欲なのよね」という言葉がとても印象に残りました。
今まで恋愛とは、人を想うことだと考えていたのですが、
確かにただの性欲なのかもしれない…
そんなことを考え、いつか作品にしたいと思っていたそうです。

そして55才になった今、
自身の動物としての性欲の衰えを感じるようになってきました。
そんな今こそ改めて、「性欲」について正面から向き合いたいと思い、このたびの作品を完成させたとのことです。

本編は5話の短編から構成されており、
それぞれの主人公が自らの性と向き合うストーリーになっています。
ここまでの話だと、性描写満載のお話を想像してしまうかもしれませんが、
実際はそんなことはなく、淡々とした普通の出来事の中に、各主人公たちと性の考察が描かれています。

その中でも印象的だったのが、妊娠をテーマにした物語です。
川上さんは、2人のお子さんを育てているのですが
「母性愛」という概念が大嫌いだそうです。
もし男性が子供を産んでいたら、男性にも母性愛的な感情が同じく生まれるだろう訳で、
「女性」だから、「母」だからという「母性神話的」な概念に対して非常に脅迫的な違和感を抱くそうです。
そんな彼女の経験から生まれた、小説中の主人公の出産に対する喜びや恐怖、
そして子供の成長への向き合い方には、まだ私は体験していないはずなのに、
どこかリアルで、女の怖さと儚さを感じさせられました。

■自分の価値観を作品にする

ここ最近、デザインに関するトークショーや書籍に触れる機会が多かった私にとって、
今回のトークショーはとても印象的なものになりました。
人のために生み出す「デザイン」に対して、
川上さんの作品は、彼女の意識の変化をもとに生み出された「表現作品」として存在しています。
彼女が向き合うべき対象はあくまで自分自身になるのです。

トークショーの最後、彼女の言葉で記憶に残ったものがあります。
「性欲が衰えてきたこれからの自分に興味がある。
恋愛に対して、性欲が落ちてきて気持ちだけが残った今の私、
それはとても《ロマンチックな私》になったということ。
そんな自分が、これからどんな人(男性)と向き合っていくのか、すごく楽しみ。」

彼女の制作のテーマはあくまでも自分自身であり、
他者は存在していないのです。

デザインを学んでいく中で、
「社会でのモノ作りは人のためである」という意識が強くなっていましたが、
今改めて、「自分との対話が、社会の中でも求められる作品」になりうることに気づかされました。

トークショー最後の質問コーナーで、
個人的に聞いてみたかったことを聞いてみました。

「川上さんの作品は、ファンタジーと女の現実のあいまいな部分を描かれていますが、
その世界を描く時に意識していることはありますか?」

「ファンタジーと現実の境界を、事前に必ず住み分けしています。」
この言葉は、自分の作品を一番よく理解し、コントロールしているからこそいえるものだと思います。

ただ、自分とのポエム的な対話をするだけでなく、
自分に常に客観的視点を持っているからこそ、
彼女の作品は世に受け入れられる強さのあるものになるのだと感じさせられた
トークショーでした。